ひとつのチップに載せた40人の想い ~超低電圧LSIを開発し、低炭素社会実現に貢献せよ〜

ひとつのチップに載せた40人の想い ~超低電圧LSIを開発し、低炭素社会実現に貢献せよ

 NSWの幅広いプロダクトソリューション事業の中でもLSIの設計から製造までをトータルで提供するソリューションはひとつの大きな柱となっている。
 その実力の一端を示すのが2010年に開始した「低炭素社会を実現する超低電圧デバイスプロジェクト」における超低電圧LSIの開発だ。近年加速してきたLSIの微細化による低電力化はリーク電流などの壁に阻まれ、これ以上は難しい状況となっている。
 しかし、このプロジェクトでは0.4Vという超低電圧で動作するデバイスを生みだし、消費電力がいままでより1桁以上小さなLSIを実現しようというのだ。NSWはこのプロジェクトに2012年から正式に参画、40名体制のプロジェクトチームを作り、開発を支えてきた。
 そこで、さまざまな技術開発の中から、抵抗変化型記憶素子を用いた論理回路の山口隆行主任、PL、不揮発メモリの篠崎義弘主任、そしてアナログ回路の二本木恭隆主任と、それぞれのミッションを遂行しつつ前例のないプロジェクトに挑んだ3人に話を聞いた。

PSDS 低電圧LSIプロジェクト イメージ図

迫る納期、増加する課題にどう立ち向かったか

 このプロジェクトのクライアントである研究機関から、超低電力で動作するLSIというミッションはどのようにしてNSWに下ったのだろう。当時を知る山口は言う。「もともとは試作のチップを作ってほしいというご要望でした。これにクライアントで作成していたチップを載せ、両者を融合させたデバイスを作るというところから始まりました」
 しかし、研究機関なのでやりたいこと、試したいことが次々と出てくる。課題数は多くなり、リリース寸前になっての仕様変更も頻発した。これをクリアできた大きな要因はNSWでも未聞の「40人ワンフロアプロジェクト」ともいうべきチーム体制だ。
 「ひとつのLSIチップ開発のために40人規模でワンフロアに集まっているというのはそれまでの経験では聞いたことすらなかったですね。ちょっと困ったことをデスクで話し合っていると、思いがけず通りかかった誰かが解決策を教えてくれたことや、クライアントから示された技術的な課題をすぐに専門分野の人のところにいって教えて貰い、レスポンス良くフィードバックできたということは数多くありました」と二本木は語る。
 「複数のチップを同時に構築していくのですが、それぞれ特長のあるチップなので仕様の調整が難しい。何度も打ち合わせしてすり合わせるのですが、これもいちいち別のフロアに行っていたのでは非効率だったでしょうね」と篠崎が実感を込めて振り返る。
 チームの一体感がプロジェクトの強い推進力となった。

専門分野はアタリマエ スペシャリストたちの一歩進んだ挑戦

 「プロジェクトに参加したのは既にプロジェクトが進んでいた途中からでした。それまでは社外の人間として同じクライアントの前世代のミッションに関わっていました。その人間関係があるため、自然とクライアントの意向をチームに伝える役目を担っていました」と語るのは、NSWに入社してからの日は浅いものの、メモリ設計の大ベテラン篠崎だ。プロジェクトの中では低電圧で動作する不揮発メモリの設計というまったく新しいことに取り組みながら、“誰よりもクライアントを識る男”として頼りにされている。二本木の「篠崎さんに同行してもらってクライアントの意図を確認しながら進めてきた」という言葉がそれを裏付ける。
 山口は抵抗変化型記憶素子を用いた論理回路という、なにやら難しい回路設計チームのリーダーだが、短納期ということ以外は別に困難はなかったという。「クライアントからの要求をこなしていくだけなら簡単です。しかし“できます”は当たり前で、“もっとこうしましょう!”という提案型の設計がNSWの真骨頂ですし、それができたと思います」と胸を張る。
 アナログ回路のスペシャリストとして期待された二本木は、専門技術だけでは打開できない問題に苦しんだ。「大学や海外の企業など、いままで接したことのない世界の人々と連携が必要になり、相手の意図を完全には把握できず、後で気づいて“しまった”と思うことはありました。コミュニケーションエラーが一番怖かったですね」というが、「コミュニケーションがビジネスの基本であることを改めて痛感しました。違う分野の人々と会うことができ恵まれていたと思います」と、今ではスキルが向上したことに感謝している。

実り多かったプロジェクトを次のステップに活かす

 彼ら、スペシャリストたちの英知を結集して、5年計画だったプロジェクトは成功裏に終盤を迎えた。
 「少なくとも私のミッションは終わりましたので、今は気が楽です」と笑顔を見せる山口だが、プロジェクトに参加したことで得たものは大きいという。「誰も作ったことがないものをお客様と創り上げていくことは本当に大きな喜びでしたね。私のグループも全員が持てる力を発揮してくれましたし、何より篠崎さん、二本木さんという、社歴は浅くても素晴らしく優秀な技術者に出会えたことが一番の収穫です。社内に身近な目標があるのはありがたいことだと痛感しています」
 アナログ回路設計に携わって10年以上だが、同じアナログ回路でももっと広い世界を経験してみたいとNSWに転職してきた二本木も得るものがあった。「以前は同じ回路を世代ごとに更新していくような仕事で新規性がなかったのですが、NSWに入ってこのプロジェクトでいきなり別の世界を見ることができて新鮮でした。今後はアナログに関するシステム構築から携わって総合的なブランドを生み出せたらいいですね」と意気込む。
 設計者の喜びを率直に語るのは篠崎だ。「やっぱり設計の仕事は楽しいですね。それまでになかった回路を設計して動いた時はうれしいですし、それが世の中に出たときはもっとうれしい」
 さらに篠崎は「このプロジェクトもいずれは世に出て産業技術として定着すると思います。スマホやタブレットの低電圧化、ウエアラブルマシンの多様化などに利用されるのではないでしょうか。さまざま小型電子機器が低電圧低消費電力にすることで、今まで無かった製品を作れるようになることは間違いありません」と今後に期待を寄せる。
 ひとつのプロジェクトは終わった。さらなる成長を遂げた3人のスペシャリストたちは、次のミッションでも大いなる成果をもたらすに違いない。